記憶喪失霧ちゃん その4

5.
 一日も経たないうちに,二人は戻ってきた。
かなり簡単な任務だったようだ。(内容は書いている当事者でもわからないが…。)
小龍がひどく垢抜けした美人と歩いていたという目撃情報はあっという間に広まり,里の娘が泣いたという話もちらほら聞く。
竜魔も心穏やかではない。

「オレは…男色家ではない…。ない。」

はあ,とため息をついては霧風のセーラー服姿を思い浮かべて悶々としていた。
朝見た霧風の姿に完全ノックアウトされたらしい。
相手が男と知っていても,ビジュアルは完全に女性,しかも好みのタイプの美少女であるということで,彼の気持ちは矛盾にさいなまれている。

「霧風は…男…。でも女みたいだし…。」

竜魔はふと思い立った。
「霧風は自分を女だと言っている。そして格好も女だ。…つまり霧風は女だ!オレは間違っていない!」

ぱっと頭が明るく照らされたような気分になり,竜魔は立ち上がった。
困ったことに,竜魔は突っ走るタイプの男だった。


「霧風!」

ばんっと,ふすまを開け,竜魔が飛び出す。

「…竜魔さん。」

霧風は朝見たセーラー服姿のままで,夕食の後片付けをしている。

「竜魔さん,どうしたのですか?」

「き,君に言いたい事が…。」

竜魔は霧風の側に座ると,その手を取った。

「この間はすまなかった。」

霧風の指は白く細い。
竜魔はうっとりとしながら,霧風の顔を覗き込んだ。

「竜魔さん。」

「明日,オレと千尋谷に行かないか?いい所だ。」

「…ハイ。」

霧風は瞳を輝かせてうなずいた。


6.
 で,総帥に諭されたのか分からないが,次の日の霧風は学ランだった。
「…セーラー服の方が良かったのに…。」

と独り言を言いながら,竜魔は霧風と千尋谷へ向かった。

「竜魔さん,随分と高い所ですね…。」

「ああ,千尋谷はな…オレも昔落ちたことがあって…ハハハ!」

色気の無い話をしながら,明らかにいつもとは異なる上機嫌の竜魔。
霧風を女とすることで脳内完結した彼は朝もやが晴れた後の緑の草原のように清々しい気分だった。

「霧風,こっちに来て見てごらん…。」

「あ…すごい深い。」

恐ろしく切り立ったがけの淵に立っても平然として中を覗き込む霧風。
やはり,忍というべきか。

「あまり,身を乗り出すと危ないよ。」

そっと霧風の肩を後ろから抱いて,後ろに引き寄せる竜魔。

「あの…竜魔さん。」

「竜魔,って呼んでくれないか。」

「竜魔…。」

見詰め合う二人。
竜魔はドキドキする胸を押さえて,告白した。

「霧風…君が…す…。」

後に続く唇の動きを読むと,そのまま霧風は目を閉じた。
竜魔は周囲に人が居ないのか,さりげなく確認し,そのまま接吻しようと…。

「あっ。」

カニだ!いや,鷲だ。    (古いドラマネタです。)

― 珍しいな,あれは天然記念物じゃないか?たしか新潟県と福島県の県境に巣が確認され…。
竜魔はひょいと顔をずらせて見た。
唇の感触が来ないことを不思議に思った霧風が瞳を開けると,別の方向に視線を送っている竜魔の顔があった。

「竜魔…。」

不思議そうに同じ方向に身を捩じらせて見る。
その時,突風が二人を煽った。

「!!」

振り向きざま,霧風の姿が見えなくなり?となる竜魔。
しかし,この独眼竜は,鷲が飛び立った事と,霧風が落ちたことを同時に理解した!
こういうときにサイキックを使わねば,彼は一生仲間からアホ呼ばわりされるだろう。
霧風は寸でのところで,竜魔に再び救われることとなった。



 少し肩と頭を打ったようだ。
霧風はショックで気絶したままだ。
竜魔は霧風を抱きながら青ざめた顔で帰ってきた。

「霧が…また落ちた!」

総帥以下,いつもの面子がそろって霧風の顔を覗き込む。

「それにしてもよく落ちる子だよ,受験生にはなれないな。」

冗談交じりに項羽が呟く。

「…悪い…今回は本当にオレが悪かった。」

がっくりと肩を落とす竜魔に,総帥が優しく声をかけた。

「まあ,別にたいしたこと無くてよかった。」

「でも…。」

「なんだ?」

「女の子にこんなことして…オレ…。」

半ベソをかいた竜魔の顔を見て,小次郎が感心したように呟いた。

「竜魔,お前…。」

完全に霧風に対する扱いが変っていることに驚いていたのは小次郎だけではない。

「霧風は,女でも実は男だ。大丈夫だよ。」

小龍が竜魔を慰めた。

「いや,オレは…。」

総帥が水を絞ったタオルを霧風の額に乗せる。

「いずれにせよ早く起きてくれないもんかな。」

一同は,霧風の顔を覗き込む。

「…!」

ぐっすりと眠っていた霧風の瞳が開く。

「あれ?どうしたお前達…。」

声色は低く,聞きなれた懐かしい話し方だ。
まさか…。

「竜魔,どうした?そんな顔して。項羽に小龍,小次郎も…総帥,一体何事ですか?」

霧風は身体を起こして周囲を見渡した。

「ん…頭が痛む。」

総帥が一番初めに声をかけた。

「霧風?大丈夫か?」

「はい。…わたしは…気を失ったのですか。」

「む…そうだが。」

「ああ,思い出してきた。確か崖から落ちて…竜魔と山菜とりに行ったのだったな。」

一同は仰天した。
記憶が元に戻ってる。
しかも…自分が女として振舞っていた空白の時間をすっかり忘れて…。
お決まりの展開であるが,一堂は驚き,納得しそして安心した。


太陽がまぶしい。
竜魔は寝転びながらため息をついた。

「オレの…オレの恋心は…どこへ行っちまうんだよ。」

そよそよと風が吹いている。
頭の上から突然,あの声がした。

「竜魔,昼寝の邪魔か?」

霧風が涼しい表情で突っ立っている。
竜魔は無言で身体を起こすと,切なそうに霧風の顔を見つめた。

「そんな顔で見るなよ…。大丈夫か?」

「…うむ…大丈夫じゃないかも。」

「変な夢をみたのだ。聞いてくれるか?」

「…。」

竜魔は座りなおし,霧風の横顔を見つめた。
竜魔の頬に白い手がかかる。
二言三言,霧風は何か呟くと竜魔に身体をそっと寄せた。


<おしまひ> 


いや,本当にアップするのをすっかり忘れていました。あまりにもくだらなくて。


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